u-16アジア選手権で韓国に1ー3で敗北〔AFC]

 悔しい。この言葉しか出てこない。韓国の背中は遠いのか……。それとも日本が韓国には絶対上回れないものがあるのか……。ピッチに漂っていた雰囲気や見栄えは日本が優勢に見えるが、実際は異なっていた。攻められながらも、虎視眈々(たんたん)と『その時』を待ち、来た瞬間に確実にモノにする、韓国の勝負強さとしたたかさを目の当たりにした。

 イランの首都・テヘランでAFC U−16選手権を戦っているU−16日本代表は、25日のグループリーグ第2戦で宿敵・韓国と顔を合わせた。この2チームは昨年のAFC U−16選手権予選でも対戦している。その時は日本が2−4で敗れており、2度も同じチームには負けられまいと、吉武博文監督率いる96ジャパン(1996年生まれが中心の代表という意味)は、リベンジを懸けてこの一戦に臨んだ。

 前日の練習のとき、あるスタッフの檄(げき)が飛んだ。
「いいか、こんな気持ちで、こんな雰囲気でいたら負けるぞ。韓国はこんなものじゃない。この状態では韓国には勝てないぞ。相手は必死で勝ちに来る」

 韓国との戦いがどれほど過酷で、厳しく、ここを勝つのと負けるとでは大きく違うことを、再認識させられる光景だった。これまで数々の死闘と繰り広げてきた両国だが、近年は常に日本の前に立ちはだかる大きな壁になっている。特に年代別代表に関しては、とてつもなく高く、分厚い壁だ。
■いつも聞かされるフレーズ「球際や気持ちで負けていた」

 忘れもしないのが、2008年と10年のAFC U−19選手権である。サウジアラビアで開催された08年大会では、FW永井謙佑名古屋グランパス)、DF村松大輔清水エスパルス)、GK権田修一(FC東京)らを擁したチームが、翌年のエジプトU−20ワールドカップ代表決定戦となる準々決勝で韓国と対戦した。

『黄金世代』と呼ばれていた当時の韓国は、ク・ジャチョルチョ・ヨンチョルら豪華メンバーを擁し、間違いなくアジアナンバーワンの戦力を誇っていた。戦前から、とてつもなく厳しい戦いになるだろうと予想はしていた。しかし、ふたを開けてみると予想をはるかに超える『完敗劇』だった。

 韓国はロングボールとショートパスを効果的に組み合わせ、立ち上がりから日本を翻ろう。持ち前のスピードとフィジカルに加え、戦術的にも成熟していた韓国を相手に、日本はずるずるとラインが下がりだし、前半の段階で永井が孤立してしまった。中盤を完全に支配され、クリアをしてもセカンドボールをことごとく拾われた。ほぼワンサイドゲームの展開で、日本はなすすべなく次々と韓国にゴールを許した。

 終ってみれば0−3の完敗。日本は韓国のゴールはおろか、ペナルティーエリア内にすらほとんど入れさせてもらえなかった。U−20W杯連続出場が6大会で途切れたショックと、あまりの力の差にがく然としたことを覚えている。

 その屈辱的敗戦から2年後に行われたAFCU−19選手権。FW杉本健勇セレッソ大阪)、MF宇佐美貴史ホッフェンハイム)らを擁したチームは、準々決勝でまたも韓国と激突した。

 この試合では、日本の流れから始まり、前半31分までに2点のリードを得ることに成功した。この時の韓国は08年よりも明らかに力が落ち、戦い方も相手ゴール前まで飛ばすGKのパントキックと、前線の圧倒的な高さと強さを誇る2トップを生かした、ロングボール主体の攻撃しかなかった。

 しかし、日本は具体的な対策を講じなかった。DFラインは180センチを超える選手が1人もおらず、GKも第2戦まで出ていた選手から代えてしまう。前日練習でもロングボールに対する練習はしなかった。そして案の定、韓国お得意の形で失点を喫してしまう。幸先よく2点リードをしてしまったことで、韓国はなりふり構わずロングボールを蹴ってきた。これに対応しきれず、前半のうちに3点を失い、逆転されてしまった。すべてGKからのパントキックが起点だった。

 2大会連続で韓国に敗れ、U−20W杯出場権を失うという屈辱。今年のロンドン五輪3位決定戦でも韓国と激突し、U−19で涙をのんだ永井、権田、杉本、宇佐美がピッチに立ったが、歴史は再び繰り返された。縦に速い韓国サッカーに対応しきれず、0−2の敗戦。2失点とも相手のロングパスから強引に突破され、やられたものであった。

 そして、いつも聞かされるはこのフレーズだ。
「韓国は気持ちが強かった。球際や気持ちで負けていた」

 08年の日韓戦以外は、ほとんどの試合でテクニック、ポゼッション共に日本が韓国を上回っている。しかし、肝心のスコアがそれに比例しない。「気持ちで負けている」。それははっきり言って認めないといけない。10年のU−19選手権では後がなくなった韓国の“全身全霊”を見た。ロンドン五輪では日本に負けられないという気持ちに加え、徴兵免除(韓国はメダルを獲得すると兵役が免除される)への圧倒的なモチベーションを目の当たりにした。

 そして今大会。予選で負けている相手に対し、どのような試合を披露するのか。期待と不安を抱えながら90分を見たが、そこで見たものは押し込まれながらも、躍動感で日本を上回った宿敵の姿であった。
そして今大会。予選で負けている相手に対し、どのような試合を披露するのか。期待と不安を抱えながら90分を見たが、そこで見たものは押し込まれながらも、躍動感で日本を上回った宿敵の姿であった。

 立ち上りは日本のペースだった。前日の練習で、韓国のエースストライカーのファン・フィチャンには、181センチのセンターバック(CB)酒井高聖がマークに付き、トップ下のコ・ミンヒョクには、180センチの中谷進之介がアンカーに入ってチェックする形を取っていた。韓国GKのパントキックゴールキックは一気に前線まで飛んでくる。練習ではGKのパントキックゴールキックへの対応を逐一チェックをしていた。韓国は両サイドが、前線にボールが入ると絞ってくるため、その選手への対応を両サイドバックがどう見るか。もう一枚のCB宮原和也カバーリングのタイミング、そしてクリアしたときのラインの基本位置、さらにクリアボールを奪われたときのディレイの方法など、前日の練習で念入りにチェックしていた。そして、奪った後の攻撃の確認も行い、相当な意識でこの一戦に挑もうとしていることが分かった。

 その成果が立ち上がりは出ていた。「サウジアラビア戦はシュートが少なかったので、この試合は積極的に自分からシュートを打っていこうと思った」とMF水谷拓磨も果敢にシュートを狙い、攻撃にリズムをもたらした。

 しかし、先制したのは韓国だった。13分、韓国がカウンターを仕掛けると、相手のキックがDFに当たり、ゴール前にぽとりと落ちてしまう。ここに反応したのが、一番警戒をしていたファン・フィチャンだった。飛び出してきたGK長沢祐弥よりも一瞬早くシュートを放ち、先制点を奪われた。

 このシーンは一見すると不運のように見えるが、その前に簡単にバイタルエリアに侵入を許し、何度も個で打開しようとしてくる相手に対し、DFラインが下がったことが原因だ。そして、ゴール前にいたファン・フィチャンのマークを、ボールウォッチャーになって離してしまった。ゴール前にボールが落ちたとき、ファンは完全にマークを振り払っていた。

 その後、日本も23分にカウンターからMF鈴木徳真のパスを受けた、小川紘生がGKの位置をよく見て、ループシュートを沈めるが、そこから一気に相手を圧倒することができなかった。同じリズムでパスをつなぐ日本に対し、韓国は再び我慢をしながらも、来るべきチャンスへの集中力を磨いていた。

 ボールポゼッションで上回りながら、なかなかアタッキングエリアに入り込めないのは、裏を返せば韓国のリズムでもあった。ある程度自由にやらせて、ワンチャンスをモノにすればいい。この日の韓国にはそれが共通理解だったように見えた。そして42分、中盤深くからスルーパスをDFラインの間に通される。またもDFラインの間を簡単にチェ・チュヨンにすり抜けられると、GK長沢との1対1を決められた。

 1−2。わずか2回のチャンスをゴールに結びつけた韓国のしたたかさを痛感した。
■決勝でのリベンジを

 後半に入り、吉武監督は次々と交代のカードを切って、より攻撃的な選手を投入したが、ゴールは遠かった。途中出場のFW杉森考起が54分に、ドリブルシュートをポストに当て、65分には交代出場の三好康児のチャンスメークから小川が狙うが、これもポストに嫌われた。惜しいシーンだったが、これが入らないのがこの試合の状態を表していた。韓国の気迫としたたかさがゴールに鍵をかけると、終了間際の89分にはFKを直接沈められ、勝負が決まった。

 1−3の敗戦。またも韓国の壁に跳ね返された。「次に気持ちを切り替えたい」と吉武監督、選手たちは口にした。確かにグループリーグはまだあと1試合あり、十分に決勝トーナメント進出の可能性を有している状況だけに、ここで必要以上に落ち込んでいては意味がない。

 ただ、「1年前に一次予選で2−4で負けてから、今回リベンジを誓いましたが、1−3の負け。やはり2点差。力の差が縮まっていないことを真摯に受け止めたい」と吉武監督が話したように、韓国に力負けをした事実は消えない。

 ポジティブに考えて、第3戦の北朝鮮戦で勝ち点3を獲得して決勝トーナメントに進み、準々決勝でも勝利してU−17W杯の切符を掴み、決勝で韓国にリベンジすると意気込みたい。実際に今はそうしている。しかし、この負けを日本サッカー界全体で受け止めないと、いつまでたっても韓国の壁は打ち破れない。もう韓国は宿敵ではなく、なかなか勝てない難敵に変化している事実を、われわれは痛感しなければならない。